ハンマーで叩いて造られたマグネシウム製のバイオリン

山口県に所在する山下工業所を訪れました。山下工業所は新幹線の車両の顔に当たる先頭部を製作されています。この車両先端部の加工には機械加工ともうひとつ「打ち出し板金」という技法があります。職人がアルミニウム板をハンマーで叩くという日本の伝統技術ですが、山下工業所でその技を見せていただきました。


職人たちは、狙ったところを正確に、絶妙な力加減で叩くことで微妙な鏡面を造りだします。私も実際に体験させていただきました。職人さんたちは簡単そうに叩いていましたが、実際にやってみると叩く位置の正確さに欠けとんでもないものが仕上がりました。


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山下工業所では、「打ち出し板金」の技術を宣伝するため、アルミニウム素材でバイオリンやチェロを造られていました。しかし、本来の木製の楽器の約2倍にもなる重さが課題だったそうです。そこで目を付けられたのがマグネシウム素材です。


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アルミニウムより軽いマグネシウム合金を使い、板の厚さも1mmまで薄くして、木製と変わらない539gを実現されました。実際に音を聞かせていただきましたが音の響きが良く、木製とは少し異なるその音色は、全く新しい楽器のようでした。


日本のもの造り、なかでも熟練した職人と呼ばれる方々の、ち密な手仕事の素晴らしさは世界に誇れるものです。長い歳月をかけて継承されてきた匠の技でつくられた漆器・織物・陶器などの伝統工芸品は、その美しい意匠で世界的にも高く評価されています。
ベテランから若手への技術の伝承が大きな課題ですと、言われた山下社長の言葉が強く印象に残りました。